第2回目は
- 加齢とともに太りやすくなる原因として考えられること
- 筋肉量減少に伴う基礎代謝量低下と体重
- 非震え熱産生と”BAT”の関係
- “BAT”の熱産生とエネルギー消費のしくみ
についてまとめてみました。
加齢とともに太りやすくなる原因として考えられること
第1回で「エネルギー消費」には、以下の3つがあることをお伝えしました。
- 基礎代謝
- 骨格筋運動に伴う活動代謝
- 非震え熱産生
体重増加は、エネルギー摂取量>エネルギー消費量の関係の場合に成立します。
最もわかりやすいのは、②「骨格筋運動に伴う活動代謝」についての場合であり、
- 食べる量は変わらなくても、活動量が少なくなった
- 活動量は変わらなくても、食べる量が多くなった
状況であると考えると、体重が増加することにも納得できるかと思います。
しかし問題なのは、若い頃と生活習慣は変わらないのに体重が増加してしまう場合。
この場合の原因として思い浮かべるのは、
①「基礎代謝」が低下するため
ではないでしょうか?
加齢により筋肉量が減り、基礎代謝が低下したと想定して、この場合の体重増加について考えてみましょう。
筋肉量減少による基礎代謝量低下と体重
人間の筋肉量は、全身の約40%を占めています。
活動量が低い場合、30歳頃から下半身を中心に年間約1%ずつ低下するといわれています。
筋肉の基礎代謝量は、筋肉1kgあたり1日13kcalほどです。
では体重が65kgのヒトの場合、1年でどのくらい消費量は減るのでしょうか?
筋肉量:体重65kg×40%→26kg
1年あたりの筋肉減少量:26kg×1%→0.26kg
1年あたりマイナスとなる消費量:13kcal/kg/日×0.26kg×365日→1,234kcal
このマイナスとなる消費量がそのまま体脂肪として蓄積されたとすると、1,234kcal÷7.2kcal(体脂肪1gあたりのおおよそのエネルギー量) →1年で約170g増える計算になります。
「あれ?」「そのくらいなの?」
筋肉量の低下率に個人差があるとしても、予想していたほど大きな体脂肪の増加ではないと感じたのではでしょうか?
ただし怪我や病気などでベットの上から動けない場合では、1日1~3%、1週間で10~15%、3~5週間で約50%程の度筋肉量が低下するといわれています。
また、加齢に伴う筋肉量の低下および筋力の低下(サルコペニア)は、「フレイル」(老化に伴う種々の機能低下を基盤として、健康障害に陥りやすい状態)といった深刻な問題につながるため、大きな体重増加にならないからといって筋肉量の低下を軽んじてはいけません。
本題にもどりますが、1年に体重が〇kg増える原因は「基礎代謝量の減少」だけではないことがわかったと思います。
では、次に③「非震え熱産生」について考えてみましょう。
非震え熱産生と”BAT”の関係
③「非震え熱産生」とは、寒冷刺激に応じて亢進する熱産生(CIT)や、食べ物を噛む、消化・吸収するなどの過程において必要なエネルギー消費・発生する熱(DIT)などのことをいいます。
これらの熱産生には、「BAT」が関与しているといわれています。
つまり「BAT」が減少すると、「非震え熱産生」が起きにくくなるといえます。
“BAT”とは?
ヒトの場合「褐色脂肪細胞」と「ベージュ脂肪細胞」を構成する組織をまとめて「BAT」と呼ばれています。
脂肪細胞の種類
悪いイメージが強い脂肪ですが、脂肪細胞には「エネルギー源として中性脂肪を蓄積して飢餓に備える」働きをするものと「活性化すると蓄えた中性脂肪を分解して熱を産生・エネルギーを消費する」働きをするものがあります。
白色脂肪細胞WAT(White Adipose Tissue)
内臓脂肪、皮下脂肪と呼ばれるもので、内臓や二の腕、下腹部、お尻、太ももなどに蓄えられる脂肪です。
褐色脂肪細胞(Brown Adipose Tissue)
肩甲骨間、腎周囲に存在しています。
肩甲骨間の褐色脂肪細胞は、成人する頃には消失するといわれています。
ベージュ脂肪細胞(Brite/Beige Adipose Tissue)
形態や働きなどは褐色脂肪細胞に類似していますが、寒さなどが刺激となり白色脂肪組織中に誘導的かつ散在して出現することから、白色脂肪細胞の中の褐色(brown in white)よりBrite(ブライト)、またはBeige(ベージュ)脂肪細胞と呼ばれています。
刺激により、前駆細胞が分化、または白色脂肪細胞からの転換でベージュ脂肪となり、刺激がなくなると白色脂肪細胞様の形態となること報告されています。
成人における「BAT」は、主にベージュ脂肪細胞により構成されているといわれています。
“BAT”の熱産生・エネルギー消費のしくみ
寒冷刺激情報は、体表・消化管などの温度受容器(TRP)チャネルによって感受され、感覚神経を介して脳視床下部に伝わり、褐色脂肪細胞に分布する交感神経の活動を亢進させます。
これによりノルアドレナリンが放出され、脂肪細胞のβアドレナリン受容体に結合すると、細胞内の中性脂肪が「脂肪酸」と「グリセロール」に分解します。
分解により生じた「脂肪酸」は熱産生の原料となると同時に、ミトコンドリア熱産生タンパク質(UCP1)を活性化し、発熱を引き起こします。
刺激が長期間継続されると、
→①UCP1量や褐色脂肪細胞数が増加し、褐色脂肪の増殖・肥大が起こります。
→②白色脂肪の縮小が起こります。
→③皮下脂肪組織中にUCP1を発現する褐色脂肪細胞様のベージュ脂肪細胞が出現します。
“BAT”の減少による体脂肪への影響
「BAT」は1日あたり20kcal程度消費しているといわれ、加齢や肥満で減少します。
「BAT」の最大量は約1kgであり、成人する頃には幼児期の50%、40歳以降顕著に減少し、50歳では10%程度になるといわれています。
「BAT」によるエネルギー消費量が減少し、単純にそのエネルギー量が体脂肪として蓄積すると仮定すると、
1年後:20kcal×365日=7,300kcal→体脂肪:約1kg
10年後:20kcal×3650日=73,000kcal→体脂肪:約10kg
が増えることとなります。
この仮定からも想像できるように、近年「BAT」が体重増加に大きな影響を与えていると考えられ注目されています。
先に述べたように「BAT」は成長や加齢に伴い減少しますが、その「量」や「活性」には大きな個人差があることがわかっています。
両親や生後の生活環境・習慣などによる遺伝情報の伝わり方の違いが、「BAT」の「量」や「活性」に大きく影響しているようです。
中年期以降も「BAT」活性を維持している人の場合では、体重増加だけでなく、内脂肪蓄積や循環器疾患のリスクも低いといわれています。
BATの「量」や「活性」は、何らかの方法で増やすことはできないものなのでしょうか?
次回はその点について、触れてみたいと思います。
まとめ
- 加齢により太りやすくなる原因:「BAT」の減少による可能性が大きい
- “BAT”の「量」や「活性」には大きな個人差がある